『ドイツ軍事史―その虚像と実像―』
大木毅著
作品社刊
2,800円+税
参謀本部の創設、第一次/第二次世界大戦での戦いぶり~とくに電撃戦~により神話の域に達した感もあるドイツ軍。
本書は、ドイツ学術交流会奨学生としてボン大学に留学後は防衛研究所講師も務めた筆者が、戦後七〇年を経て機密解除された文書やドイツ連邦軍事文書館、当事者の私文書等貴重な一次資料からプロイセン・ドイツの外交、戦略、作戦、戦術の実態を検証して“神話のベール”を剥いでいく力作であり、しかも各々のテーマごとに簡潔にまとめられているので読みやすい。バルバロッサ作戦やツィタデレ作戦をはじめ第二次世界大戦関連が多いが、シュリーフェン・プランやワーテルロー戦役等々も取り上げられている。
一読して、敗国の将官(おそらく勝国の将官も)の証言には意識無意識の作為が入るものであり、本人の手によるものであっても、一人(あるいは少数)の手記のみを頼ることの危うさを再認識した。また箸休め的に挿入されている「戦史こぼれ話」も優れて興味深く(とくに休暇システムや“回想録に書かれていない本人の行動”など)、続刊が望まれる。
『軍事大国ロシア 新たな世界戦略と行動原理』
小泉悠著
作品社刊
2,800円+税
この数年、世界情勢においてロシアが急速に存在感を高めている。とくにウクライナやシリアへの軍事介入を行なったことは世界の耳目を集め、懸念を呼んでもいる。
本書は「新たな世界戦略と行動原理」という副題の通り、近年のロシアの情勢認識やこれに対する新たな軍事戦略などを膨大なロシア語資料から丹念にまとめ、分析した一冊である。
なかでも、ウクライナ紛争で注目を集めたロシアのハイブリッド戦略やそれを支える核戦略や情報戦略についての分析はこれまでにないもので、現代のロシアを軍事面から読み解くうえで必読の書と言えよう。近年の軍改革の成果や、社会・政治面から見た軍事国家としてのロシア、普段は注目されることの少ない準軍事部隊、軍需産業と武器輸出といった側面にも光が当てられている。
巻末には「軍事ドクトリン」と「国家安全保障戦略」の翻訳が全文掲載されており、資料的価値も高い。筆者は小誌でもロシアの軍事問題について論考を発表している小泉悠氏である。四六四ページという大著だが、小泉氏の撮影も含む写真や図表、コラムも豊富に挿入されている。
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